Backstory

投資先の社員と協調し、多くのプロフェッショナルの力を借りて実現する成長戦略

マリン・プロフーズ社の独立プロセスに見る投資の向こう側

プライベート・エクイティ部

本間 茂寿

本プロジェクトは大手食品グループの食材事業を、分割型分割にて大和PIパートナーズが譲り受けたものだ。1年という限られた時間での独立・移行作業は成功し、株式会社マリン・プロフーズ(以降、マリン・プロフーズ社)という名称にて再出発した。現在も順調に成長を続ける同社のスタンドアロン化プロセスを、個人的な視点も加え、振り返りたい。

大手グループの食材事業が秘める大きなポテンシャル

まず始めに、分割の背景と、マリン・プロフーズ社として独立した食材事業について概観しておく。

この大手食品グループの食品事業では豆乳が有名であるが、豆乳事業以外に業務用の練り製品や農産・大豆加工品の企画開発・販売をしている食材事業があった。

その食材事業は基本的に冷凍製品を扱っていたため、主にドライ品・チルド品を流通させているメイン事業とは別に冷凍用の流通を確保する必要があり、少し位置づけが異なるものではなかっただろうか。そういった背景も含めて、食材事業が事業ポートフォリオの見直しの対象になったと理解している。

社員の方々は優秀で、大手食品グループ基準の高い品質保証体制があり、毎年安定的に成長しているなど、多くの魅力的な点を持つところに「さすが」と感じた。独立してもさらなる成長が見込まれる、投資妙味のある案件であった。

ゼロからのシステム・オフィス構築は想像以上に難航したが、社員の頑張りと多方面からの協力に支えられる

スタンドアロン化において、最初にして最大の壁は独立させるまでのプロセスにあった。

今回の契約では、譲受対象が食材事業の営業、商品企画、品質保証であり、管理機能は対象外となっていた。そのため、利用していたすべてのシステムとオフィスをゼロから構築する必要があった。構築の期限は、管理部門機能を使用することができるTSA(Transition Service Agreement)期間が満了する1年後である。

この1年間で経営企画、経理、総務、システムの人材を採用し、引き継ぎを受け、システムについては新たに受発注、在庫管理、販売等の基幹システムから会計、小口精算、人事・給与・勤怠管理に至る全てを構築しなければならない。本社・営業所を含む5拠点のオフィスに関しても、新オフィスへの引越しを完了させる必要があった。

当初、1年間という期間で十分対応可能と考えていたが、個人的には、システムに関する懸念は強かった。前部署でシステム移管に非常に苦労した経験があったというのもある。弊社とマリン・プロフーズ社側で多数のベンダー候補を挙げたが、案の定、1年間でシステムの新規構築と旧システムからの移管を完了することは対応期間として現実的ではないと受けてくれないベンダーが多く、ベンダー探しから苦労することになった。

それでも粘り強く探し続けた結果、1年間というTSA期間内での導入完了という厳しい条件でも対応可能と確約いただけるベンダーを探すことができた。選択の余地はほぼなかったが、各種システムの導入にあたってはその中から、食品業界特有の商習慣に対応でき、将来的に機能拡張性の高いシステムを提供できるベンダーを選定した。

厳しい時間的制約がある中でも、マリン・プロフーズ社の社員は妥協せずにベンダーと密にコミュニケーションをとりつづけ、マリン・プロフーズ社が目指すシステムの方向性をベンダーにしっかり理解いただくことができた。この時点で投資実行から半年弱が経過しており、そこから急ピッチで要件定義、基本設計へと、導入に向けたプロセスが進められた。実質半年間での開発と導入であり、驚異的なスピードであったと改めて思う。

オフィス探しも非常に難航した。オフィスでは、新商品の開発・試作あるいは営業用の試食品の調理を行わなければならない。このため、全てのオフィスにテストキッチンが必要であるが、テストキッチン設置可能物件が想像以上に少ない。特に本社に関しては、給排水設備が設置でき、匂い問題がクリアできることが必須で、かつ執務室を含めた必要な広さのある物件を、想定予算内で見つける必要があった。

非常にタイトなスケジュールに追われることになったものの、結果的には遅延することも失敗することもなく、期限内にすべてのタスクが完了した。スタンドアロン化を成功裡に終えられたのは、さまざまな分野の各プロフェッショナル、システムベンダーや内装業者、そして本社オフィスの家主である同業の食品会社などの理解と協力があってこそだった。その中でも、特にマリン・プロフーズ社の社員が優秀だったことに救われた部分が大きく、不思議と何とかなるだろうという気持ちにさせてもらった。

投資の向こうには社員の人生がある。「縁」の大切さを改めて実感するプロジェクト。

プロジェクトにはディールヘッドとして全てに関わった。当社は金融投資家であるため、投資収益をあげないといけないが、本プロジェクトはそれと同時に、譲受対象事業に従事する45人の社員の方々の人生を背負っている感覚もあった。

その想いは投資実行前あたりから強くなった。DD(Due Diligence)中や二次入札の頃は、社内説明資料の作成や細々した作業などに忙しいこともあり、またディールのビッドの結果も見えていないことから、会社を買うという現実味はそう強くはなかった。

しかし、譲受先が当社に決まり、投資実行前の売主側との打ち合わせなどで譲受対象事業の社長・社員の方々と顔を合わせることが多くなってくると、「株式会社マリン・プロフーズ」を譲り受ける新株主として、マリン・プロフーズ社の社長・社員の方々の人生を変える要因の一つになったのだという感覚が強くなってくる。

また、売主からも、大和証券グループに売るなら大丈夫と期待を込めてお譲りいただいているので、なおさら売主の期待を裏切るようなことはできないし、大和の看板を汚すようなことはできない。強いプレッシャーを感じるプロジェクトだった。

さて、この記事の執筆時点で、独立後1年超が経過した。競合からは、大手から独立して上手くいかないだろうと思われていたようだが、事業が順調にいっているため、無視できない存在になっているようだ。展示会等で、マリン・プロフーズ社が商品アピールの出展をすると、競合他社が様子を見に来たり、商品の写真を撮っていったりすることが増えており、注目を集めていることを実感する。

最後になるが、本プロジェクトを通して感じたのは「縁」の大切さだ。システムを請け負ってくれたベンダーも通常は受けない案件だったが、紹介により一肌脱いでくれた。本社オフィスの家主である食品会社には、同じ食品業界の会社ということで非常に好意的に入居させていただいた。オフィス内装に関しても、別の投資先と関係があったオフィス設計業者に、スケジュールが厳しい中でも、費用を抑えつつ、機能的で使い勝手の良いオフィスになるよう調整してもらった。そして、なによりも一緒に成長戦略を実行するマリン・プロフーズ社の社員の方々との「縁」に深く感謝したい。

投資業務はプロフェッショナルの協力無くして成り立たない。今後も「縁」は大事にしていきたいと思う。

プライベート・エクイティ部

本間 茂寿

Focus

  • カーブアウト

  • 経営の高度化

  • LBO

Bio

2008年、大和証券SMBC株式会社(現大和証券株式会社)入社。 財務部、商品業務部を経て、2014年からリスクマネジメント部にてマーケットリスクのリスク計測・マネジメント業務などを担当。 2019年10月よりプライベート・エクイティ投資業務に従事。現在、投資先の株式会社マリン・プロフーズ取締役を兼務。

  • 慶應義塾大学理工学部卒業

  • 慶應義塾大学大学院理工学研究科修了

  • 社団法人日本証券アナリスト協会検定会員