Topic

最小侵襲手術(MIS)用医療精密機器メーカーの国際共同バイアウト

メディカルデバイス投資の価値と将来性

国際投資部

厳 瀟奕

Table of Contents

Introduction

投資背景

最小侵襲手術(Minimally Invasive Surgery、以下「MIS」)とは、皮膚の傷をなるべく小さくし、筋肉・靱帯にも必要最小限の侵襲を与えるだけで行う手術です。患者さんの負担が少なく、技術の進歩により、多くの手術で採用されるようになっています。

MEDSCOPE BIOTECH Co., Ltd.(邁斯科生醫股份有限公司、以降Medscope社)は、台湾でMIS用精密機器を製造するメーカーです。大和PIパートナーズの国際投資部ではMedscope社へ投資を行い、事業を支援しています。

新興国のMIS成長による需要増加により、Medscope社の主力製品である「クリックアプライヤー」の市場規模は2018年に48億米ドルに達し、2019年~2026年CAGRは7.0%以上と予測されています。需要量の増加により、高品質かつ中価格帯の商品へのニーズが高まることで、米系大手2社(メドトロニック、J&J)が独占している産業構造に変化が起きています。

新規プレイヤーの参入チャンスが生まれる中、ハイテク分野で世界的規模の生産を担うまでに成長を遂げている台湾の製造企業は、今後より優位性を発揮できると考えています。

Medscope社の主力製品の一つであるクリップアプライヤー10㎜用。

高品質なMIS用医療機器を研究開発・製造・販売し、すでにグローバル展開も行う

Medscope社は、内視鏡・腹腔鏡手術時に管腔組織や血管に取り付ける「5㎜・10㎜使い捨て型 多発チタン製クリップアプライヤー」を始め、MIS用手術器具の研究開発から、製造、販売に至る事業を展開しています。

すでに40以上の国と地域で特許を取得し、2020年からはヨーロッパ、中東、南アフリカ等で製品の販売を開始しています。各国のディストリビューター、医学専門家から高い評価を得ており、販売量を拡大させています。

Medscope社のクリップアプライヤーは、高い品質を保ちながら価格を抑えることに成功しており、これが現在のグローバルな高評価を受けている理由の一つです。特許を取得した「Pitch Loading構造」は、作動構造を改良することで部品点数を減らし、作動安定性の向上、空発・クリップ落下などの事故発生率の低下に寄与しています。さらに、部品点数の減少がコストを低下させ、価格競争力を得ることにも成功しました。

その他にも、クリップ残量の表示や、空発回避用の自動ブロック機能など、安全性や利便性を向上させる多くの特長があります。

また、製品の品質保証システムとして、自社工場にISO 13485の認証及びGMP(※注1)品質システムの認証を取得・維持しています。社員を大切にし、製品イノベーションを怠らない企業です。

※注1:Good Manufacturing Practiceの略。WHOによって制定された医療関連製品の品質水準を担保するためのグローバルスタンダード。

クリップアプライヤー10㎜用のクリップ部。小さいクリップは膵臓等の小さな臓器に使用が可能なことに加え、内視鏡手術やMIS以外の外科手術にも応用が効く。傷口も小さく済み、退院までの時間、リハビリの時間を短縮できる。

台湾ローカルパートナーとの共同投資と国内における独占販売権の獲得

Medscope社への投資は、AXR GROUPからの紹介で検討が始まりました。AXR GROUPは、大和PIパートナーズが長年にわたり提携している台湾のローカルパートナーで、バイアウト、不動産投資、医療製薬関連事業等を主たるビジネスとしています。

パンデミックの影響で、台湾に赴きデューデリジェンスを行うことが叶わない中、日本からリモート環境を駆使して投資検討が行われました。現地のリーガルチームや特許リサーチチームとオンラインコミュニケーションを取りながら、Medscope社の製品販売先である各国のディストリビューターやKOLsとのレファレンスコールを通じて、各市場ごとの特徴やマーケットポテンシャルを把握しつつ、Medscope社が作成した事業計画を検証していきました。半年以上の投資検討期間を経て、社内の投資決裁会議で投資実行に至りました。

メディカルデバイス企業がグローバル市場のシェアを取得することを目指す場合、各国ごとに薬事承認や販売ライセンスを取得する必要があるため、どうしても成長に時間と資金が必要になります。そこにパンデミックが発生したことで、通常よりもさらに長い時間がかかることになり、Medscope社は資金面で苦しい状況に立たされていました。

この状況下で安定した経営サポートと資金を投入するためには、共同投資という形態が強さを発揮します。「Medscope社の製品の品質」「MIS業界の成長性」「台湾製造業の競争力」を評価するAXR GROUPと私たちによる共同バイアウトが実現したことにより、様々な状況に対応し、長期的な利益の最大化を目指した経営や思い切った改革などを行うことができるようになりました。

私たちが特に大きく貢献できるのは、日本国内でのバリューアップであり、すなわち国内での販売力強化です。まずはクリップアプライヤーを高度管理医療機器としてPMDA(※注1)による審査を通過させ、厚生労働大臣認可を受けます。

しかし、国内の同様な製品のシェアはJ&Jによるアメリカ製品がほぼ独占しており、新規の流通経路を開拓するのは容易ではありませんでした。全くゼロから医療機器流通ルートを調査し、三菱商事グループ傘下のメディカルディストリビューターである日本メディカルネクスト株式会社(以降日本メディカルネクスト社)、エム・シー・メディカル株式会社(以降エム・シー・メディカル社)の存在を知ります。

さらに、当社のお取引先の金融機関が日本メディカルネクスト社、エム・シー・メディカル社と繋がりがあることが分かり、エム・シー・メディカル社へのコンタクトに成功しました。エム・シー・メディカル社も商品ポートフォリオに追加するクリップアプライヤーを探しており、韓国、中国、インド等からの商品との比較検討の結果、Medscope社の商品を高く評価していただき、国内独占販売契約に至りました。また、2023年10月には薬事承認を取得しました。

引き続き、私たちはAXR GROUPと共に、Medscope社の台湾での上場を目指して支援を継続していきます。

※注1:日本で医療機器を販売するには、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA、Pharmaceuticals and Medical Devices Agency)による審査を通る必要があります。

生産ラインの一つ。

世界的な医療水準向上への貢献

Medscope社の発展途上国でも使えるようなリーズナブルで高品質な医療器具は、人類全体の医療の発展に必ず役立ちます。また、この器具は消耗品のため、今後確実と考えられるグローバルな需要の増加がMedscope社の成長に直接つながることも投資実行の要因の一つとなりました。

人体への負担が少なく、無害かつ生体適合性が高いチタンを製品に使用していますが、手術中の感染リスクを抑えるため使い捨てであることから、Medscope社では環境負荷低減を目指し、先端部分のみを使い捨てにする機種の開発にも着手しています。

大和証券グループは、2018 年にSDGs推進委員会を設置し、経営戦略の根底にSDGsの観点を取り入れると共に、持続可能な社会の実現に資する商品・サービスの提供に努めています。今回のMedscope社への出資はそうした取組みの一環でもあり、サステナブルで豊かな社会の創造に向けて貢献していきます。

本取組みにより達成を目指すSDGsの目標:
目標3:「すべての人に健康と福祉を」
目標9:「産業と技術革新の基盤をつくろう」
目標12:「つくる責任 つかう責任」

From the team

担当チームよりひとこと

  • 人生の真の試練は、逆境に耐えることである

    このプロジェクトのポイントは2つ。1つ目は、メディカルデバイスへの投資判断をするうえで、担当者自身もプロと話ができるだけの知識を獲得する必要があったこと。2つ目は、当社として海外メディカルデバイス初の案件で、ローカルパートナーからのサポートがあったにもかかわらず、課題が山積し、タフな精神力が求められたこと。常日頃より、私たちの仕事の目的は、利益追求のみならず、投資先の長期的な成長を実現し、最終的には社会的貢献を果たすことだと考えている。本件は、これまで以上に困難な案件と思われたが、地道に知識をつけ、粘り強く努力することで課題を解決し、乗り越えることができた。このプロジェクトが少しでも社会的貢献につながることを切に願っている。

    国際投資部

    厳 瀟奕